第30回日本磁気歯科学会学術大会

教育講演

教育講演1 11月7日(土)15:35~16:05

大川周治先生写真

講師:大川周治先生
(明海大学歯学部機能保存回復学講座歯科補綴学分野 教授)
演題:「磁性アタッチメントを応用した補綴歯科治療が保険収載される意義について」

令和2(2020)年1月9日に開催された令和元年度第3回診療報酬調査専門組織・医療技術評価分科会での承認を経て、同年2月7日の中央社会保険医療協議会(中医協)において、「磁性アタッチメントを用いた義歯の支台装置」が「診療報酬改定において対応する優先度が高い技術」として承認されました。なお、磁性アタッチメント自体は、歯科医療技術には該当しないことから、現在(8月中旬)、保険医療材料制度等に準じて対応、つまり、いわゆるC2区分として保険収載(保険点数等の確定)に向けて最終の手続きが行われています。本教育講演発表において、保険点数や算定が可能となる月日等が確定していることを期待いたします。

磁性アタッチメントは1992年に市販が開始された当初から、他のアタッチメントと同様、自費診療用の支台装置として臨床応用されてきました。したがって、磁性アタッチメント応用による歯科医療技術の保険収載提案に関しては、本学会理事会で幾度となく協議されてきましたが、慎重論が根強く諸先生方の賛同が得られるまでに、かなりの時間を要したことは否めません。私が本学会理事長を拝命していた期(2017)において、両側遊離端欠損症例の可撤性部分床義歯(インプラント義歯、全部床義歯は除く)に限定することで、理事の先生方の本医療技術評価提案に関する合意がようやく得られました。そして、磁性アタッチメントの市販開始から実に30年近くの年月を経て、保険収載が実現いたしました。ただし、保険収載をめざした一番の目的は、日常臨床における磁性アタッチメントの普及です。不適切な臨床術式により、磁性アタッチメントが誤った評価を受けることは避けなければなりません。磁性アタッチメントを応用した補綴歯科治療の保険収載(限定有)を受けて、今後、日本磁気歯科学会はどのように活動を進めていくべきか、先生方とともに考えていきたいと思います。

教育講演2 11月7日(土)16:20~16:50

高田雄京先生写真

講師:高田雄京先生
(東北大学大学院歯学研究科歯科生体材料学分野 准教授)
演題:「ISO 対策委員会報告 歯科用磁性アタッチメントの国際標準化を目指して(最終回)」

歯科用磁性アタッチメントの国際標準化に向けての準備は2005年から始まり、2007年のISO/ TC 106 ベルリン会議から8年の年月を経て2015年にAmendment 1(追補版)を含む歯科用磁性アタッチメントの国際規格 ISO 13017:2012(Ed.1)がようやく完成した。国際規格策定の準備段階を含めると10年以上の月日を要したことになる。

ISO対策委員会報告を振り返ると、当時ISO規格の策定を遂行していたISO標準化委員会(ISO対策委員会のメンバーで構成)で、日本のエキスパート(専門委員)を担当されていた田中貴信先生のご配慮により、大会長をされた愛知学院大学主幹の第20回学術大会(2010年10月30~31日)において、ISO/TC106の定例会議での策定状況を報告したのが最初であった。2008年9月のイエテボリ会議で、ISO/ TC 106/ SC2に歯科用磁性アタッチメン卜のワーキンググループ(WG22)が新たに設置され、日本の草稿がWD13017(作業原案)として承認されたので、日本が議長国となり、日本主導の規格策定が現実したことを報告した記憶が今でもしっかりと残っている。

2009年9月に開催されたISO/TC106大阪会議を経て、WD13017が2010年3月にCD13017(委員会原案)へ、2011年6月の投票でDIS 13017(国際規格案)に昇格した。その後、FDIS 13017(最終国際規格案)となり、ISO 13017(歯科用磁性アタッチメント)が、2012年7月に、維持力測定法を強化したAmendment 1(追補版)が2015年11月に発行された。これらの規格によって、小型で軽量に加え、大きな維持力を示す日本の歯科用磁性アタッチメントのメリットを遺憾なく世界に発信できる国際標準が誕生した。

2017年の定期改定を迎え、規格の使いやすさを考慮して ISO 13017 と Amendment 1を統一した規格策定を提案し、2017年にNP(新規事業項目提案)を行い、2017年8月の香港会議の後にDIS 13017に昇格したが、2018年9月に開催されたISO/ TC106ミラノ会議では、十分なコンセンサスを得ることができず、FDISに進めることができなかった。そのため、予定よりも1年間の遅れをとることになったが、2019年9月のISO大阪会議の後にFDISの可否を決定することになった。10年ぶりのISO大阪会議ということで、地の利を生かし、維持力測定装置を会場に設置した実演付きのプレゼンテーションを行い、翌年2020年5月にFDIS 13017、同年7月16日に国際規格の一本化を実現した新しいISO 13017:2020(Ed.2)が発行されるに至った。

今回のISO対策委員会報告では、歯科用磁性アタッチメントの国際規格ISO 13017:2020(Ed.2)の完成に至るまでの経緯と、策定にご尽力頂いた多くの先生方のご苦労を最終回としてご報告したい。ISO対策委員会報告を初めて行ったのが、愛知学院大学主幹の第20回学術大会であり、完成を報告する最終回も、武部純先生が大会長を担当される愛知学院大学主幹の第30回学術大会である。不思議な偶然なのかもしれないが、このような時間をご配慮下さった武部大会長、並びに熊野準備委員長に心より感謝する次第である。

最後に、ISO 13017の規格策定及び日本磁気歯科学会の発展にご尽力下さいました故 水谷 紘先生のご功績に感謝すると共に、ご冥福をお祈りする。

大会事務局
愛知学院大学歯学部 有床義歯学講座
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